< X 線検査装置× AI エンジン>最新技術で火災を防ぐ「未来のプラント」で安全なごみ処理場を世界へひろげる
CIC Forum
< X 線検査装置× AI エンジン>最新技術で火災を防ぐ「未来のプラント」で安全なごみ処理場を世界へひろげるCIC Forum #2

X 線検査装置に強みを持つ株式会社 IHI 検査計測と、AI エンジンを開発している株式会社 PFU は、燃やせないごみに混入するリチウムイオン電池等の検知システムを共同開発しています。CIC Tokyo を通じて生まれたコラボレーションの背景や、今後の展望をお伺いします。

 

・株式会社 IHI 検査計測 機器装置事業部 セキュリティシステム部 部長 吉田 正樹様

・株式会社 PFU  次世代事業開発室 RAPTOR 事業開発部 部長 田畑 登様

 

– IHI 検査計測と PFU はどんなことに取り組まれていますか?

田畑さん「リチウムイオン電池が原因とみられる火事が、ごみ処理施設で相次いで起こっていることはご存知でしょうか。リチウムイオン電池は小型で軽いので持ち運びできる電子機器や家電製品に幅広く使われていますが、外部から衝撃を受けると内部がショートして発煙や発火に繋がります。そのため、自治体ごとの捨て方が決まっており、燃えるごみとして廃棄しないようにルールが定められているんです。しかし、環境省によると 2020 年度にリチウムイオン電池が原因となったごみ収集車やごみ処理施設での火災等は 12,765 件(*1)も発生しています。中には被害額が数億円にのぼり、設備が被害を受けて不燃ごみを近隣の自治体で処理してもらわなければならなくなる状態が約 3 か月間続いたという事例がありました。」

 

吉田さん「私たち IHI 検査計測は、空港の保安検査場で使われる X 線検査装置や、船舶で運ばれてきたコンテナ貨物を丸ごと検査するような大型X線検査装置の開発・販売に強みを持っています。PFU は世界シェア No.1 (*2)のイメージスキャナー開発で培った光学技術・画像認識技術を応用して、不燃ごみとして集められたビンの色選別を自動化する AI エンジンを提供していました。今回のコラボレーションでは両社の技術を組み合わせて、燃やせないごみに混入するリチウムイオン電池を検知するシステムを作ることに挑戦しています。」

 

 

– 今回のコラボレーションはどのように進めていかれたのでしょうか?

田畑さん「 CIC Tokyo には大企業からスタートアップ、地方自治体など幅広い組織や団体が入居しています。PFU は 昨年から CIC Tokyo へ入居させていただきましたが、最初は CIC Tokyo のスタッフにお願いして色々な人と繋げてもらっていましたが、イベントなどに参加することで知り合いが増えていき、今では自分から繋がりにいけるようになっています。今回のコラボレーションは、私が所属している大企業同士で新規事業開発の情報交換やコラボレーションができるコミュニティで、IHI 検査計測のグループ会社である IHI の方に出会ったのがきっかけでした。リチウムイオン電池が原因となる火災が増えているという話は、クライアントであるごみ処理施設から相談を受けていましたが、自社で X 線検査装置に関する技術を持っていなかったので IHI の力を貸して欲しいとお願いしたんです。」

 

 

吉田さん「X 線検査装置についてであればグループ会社である当社の方が詳しいだろう、ということで IHI から田畑さんの紹介を受けました。IHI 検査計測としては、既存の事業領域を拡大させることと並行して、新領域を開拓していきたいと考えていたタイミングだったこともあり、まずは話を聞いてみようと思いました。当時の代表の田中はもともと技術畑だったこともあり、2023 年 9 月に行われた初めての PFU さんとの面談で意気投合。田中は昔、大型のリチウムイオン電池の開発やびんの分別についても取り組んだことがあったようで、ご縁を感じていましたね。」

 

田畑さん「まさに運命を感じましたね。そこからはすごく早かったです。3 ヶ月で予算を確保して 2023 年中には事業をスタートさせていました。」

 

吉田さん「当社としてはごみの分別に関わる初めてのプロジェクト。理論的には X 線を通せばリチウムイオン電池が検知できますが、様々な材質や大きさのものが入り混じったごみの中から正確な結果を得ることができるかは分かりません。まずは現場でテストしてデータを取ってもらいました。結果としては大成功。AI エンジンと組み合わせていくことで現場で求められるクオリティの製品へ成長させていくことができる目処が立ちましたので、そこからは定期的な打ち合わせを行い本格的にプロジェクトが動き出しました。」

 

 

田畑さん「 2024 年 5 月に行われた 2024NEW 環境展にデモ機を出展しました。両社の初面談からわずか 9 ヶ月でそこまでプロジェクトを進められたのはかなりの成果だと思います。結果としては、今まで出展した他の製品と比べ物にならないくらい反響が大きく、IHI 検査計測も PFU も全社ですごく盛り上がっている状態です。営業体制なども販売開始に向けて社内で整えていかなければなりません。」

 

– 今後の展開について教えてください。

田畑さん「 2025 年 5 月の環境展で昨年のデモよりもアップデートされた製品をお披露目したいので、4 月には現場で求められる水準での完成を目指しています。プロジェクト開始から1 年半で世の中に製品を出すことになりますね。ごみ処理場の方からは、昨年のクオリティのままでも販売して欲しいという声をいただくほどリチウムイオン電池の問題には困られている状態です。急がねばなりません。もちろん、完成後も PMF(プロダクトマーケットフィット)達成すべくアップデートは繰り返します。」

 

吉田さん「完成まで時間は少ないですがクリアすべき様々な課題が存在しています。当社がこれまで取り組んできた空港の保安検査場で使われる X 線検査装置などは使用環境が安定していますが、今回のプロジェクトではごみ処理場の不安定な環境でもエラーがなく稼働し続けるシステムを開発する必要があります。今は現場で技術者と膝を突き合わせて一歩一歩進めている状態ですね。あとは、既存の施設に導入することになるので、機械を置くスペース的な問題やX線の遮蔽をどうやるかといったところも検討しなければなりません。」

 

田畑さん「火災はリチウムイオン電池が外部から衝撃を受けるタイミングで起こります。具体的には、ごみ袋がごみ処理場に運ばれてきたあとに粉砕機や破壊機で袋が破られるのですが、その時にリチウムイオン電池が含まれる製品が壊れて火災が起きます。それを踏まえて、どの段階で検査装置を通すか提案する必要があり、さらにはごみ処理場のプラント設計まで考えて「未来のプラント」のあり方を提案していくべきだと思っています。現在、自治体やプラント会社と話を進めており、町田市さんとの取り組みが「未来のプラント」の実現に向けた第一歩になりそうです。そして将来的には世界で活用されるシステムになることを目指しています。現在は検知したリチウムイオン電池を現場の作業員が手作業で取り出していますが、特に、欧州では労働者の安全を守るルールが厳しいため人が取り出すオペレーションをそのまま導入するのが難しい。追々は検知したリチウムイオン電池をロボットアームで取り出すことができるようにしたいです。」

 

吉田さん「 海外ではごみの処理量も多いので、装置の大型化も求められます貨物を検査する装置なども持っているので、その技術を応用して X 線の出力を上げたりすることは可能だと思っています。」

 

 

田畑さん「環境省にも興味を持ってもらっており、今後は国や世界を動かしていくようなプロジェクトに成長していくと思うとワクワクしますね。CIC Tokyo でこういったコラボレーションが生まれているということを 1 人でも多くの方に知っていただき、コミュニティが活用されていくきっかけになればいいなと思います。」

 

吉田さん「そうですね。IHI 検査計測は CIC Tokyo に入居していないので、今回は IHI 経由でコラボレーションのお声がけをいただいたのですが、今回のことをきっかけに CIC Tokyo をもっと知りたいと思いました。日々の業務に追われていると他社と交流する機会がそこまで多くないので、イベントなどに積極的に参加してみようと思いましたね。会社の若いメンバーにも勧めてみようと思います。」

 

  • ※1 出典:リチウム蓄電池等処理困難物対策集(令和4年度版)P.33 https://www.env.go.jp/content/000124904.pdf
  • ※2 ドキュメントスキャナーを対象とする。日本・北米は KEYPOINT INTELLIGENCE 社( InfoTrends )により集計( 2022 年実績)。ドキュメントスキャナー集計より Mobile/Micro を除く 6 セグメントの合計マーケットシェア(主に 8ppm 以上のドキュメントスキャナー全体)。欧州は infoSource 社( 2022 年実績)の集計に基づき、西欧地区(トルコとギリシャを含む)におけるシェア。

 

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