2026年3月11日、CIC Tokyoにて「CRREM Japan Forum 2026~ゼロエミッション東京実現に向けたパスウェイ~」が開催されました。
本フォーラムは、建物を起点とした脱炭素都市の実現に向け、世界的な評価基準である「CRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)」をテーマにしたハイブリッドイベントです。
現在、不動産や金融市場において、脱炭素は単なる「理念」から、投資やビジネスの意思決定を左右する「現実のルール」へと急速に移行しています。
東京都が掲げる「2050年ゼロエミッション東京」の実現に向け、行政、大企業、金融機関、そしてスタートアップがどのように連携し、都市脱炭素を「構想」から「実装」へと進めるべきか。当日は白熱した議論が繰り広げられました。
■ イベント概要
■ セッションレポート
開会挨拶:
「CIC Tokyoが牽引する環境エネルギーイノベーションコミュニティについて」
溝手 翠(CIC Institute Assistant Director)
300社以上のスタートアップが集積するCIC Tokyoでは、環境エネルギー領域を重点分野として位置づけています。本イベントが、東京都の政策、世界基準のCRREM、そしてスタートアップの革新的なテクノロジーを繋ぎ、都市脱炭素化の新たなストーリーを描く契機となることを目指しています。
基調講演:
「世界の都市で進む不動産の脱炭素」
アンドレア・パーマー 氏(CRREM CEO)
欧州発のCRREMは、パリ協定の1.5℃目標に整合する「右肩下がりの脱炭素パスウェイ」を提供するツールであり、現在では不動産セクターの脱炭素化におけるグローバルスタンダードとなっています。 建物のエネルギー消費がこのまま続いた場合、いつ目標未達となるか「座礁資産(Stranded Assets)」化するのかを明確に可視化します。SBTi(科学的根拠に基づく目標イニシアチブ)とも連携しており、東京と世界の不動産を共通の基準で比較・評価できる点が、国際的な投資判断において極めて重要であることが示されました。
東京都の戦略:
「消費する都市」から「生み出す都市」への転換
安藤 利幸 氏(東京都環境局 統括課長代理)
東京都のCO2排出量の約7割は「建物」に起因しており、建物の脱炭素化は都市戦略における最優先課題です。 都は「2050年ゼロエミッション東京」を掲げ、2025年4月からは新築住宅への太陽光パネル設置を義務化しました。これは単なる規制ではなく、都市をエネルギーの「消費地」から「自ら生み出す都市」へと転換する画期的なアプローチです。さらに、世界初の都市型キャップ&トレード制度を通じ、環境性能の高い建物が市場で選ばれる「見える化」を推進していく方針が述べられました。
不動産テック:「行動変容を促し、建物の「ソフト価値」を最大化する」
伊藤 幸彦 氏(株式会社GOYOH 代表取締役)
脱炭素の実現には、建物のハードウェア改修だけでなく、テナントなど「利用者」の行動変容が不可欠です。 株式会社GOYOHが提供する「EaSyGo」は、利用者のウェルビーイングや脱炭素行動・目標をデータ化し、不動産と連携させるソリューションです。CRREMの指標に基づいて実際の利用者の貢献を定量化することで、投資家にとっての移行リスク(トランジションリスク)を低減させ、不動産の財務的リターンと社会的インパクトの両立を図るテクノロジーの役割が示されました。
交通と都市脱炭素:「街全体の「アクセシビリティ」からCO2削減を評価」
森下 和之 氏(株式会社Spatial Pleasure CTO)
都市の脱炭素は、建物単体では完結しません。建物の周辺環境を含めた「移動のしやすさ(アクセシビリティ)」の評価が求められます。 株式会社Spatial Pleasureは、交通・物流領域のCO2排出量を科学的に計測するDMRV技術を展開しています。通勤手段を公共交通機関やEVへシフトさせることで生じる削減量を可視化し、それを建物のスコープ3削減として評価する仕組みは、都市全体での脱炭素化を促進する次世代のアプローチとして注目を集めました。
■ パネルディスカッション:ゼロエミッションへ向けたトップ企業の取組み
セッションの後半では、各業界を牽引するトップ企業が登壇し、実務レベルでの脱炭素実装について熱量の高い議論が交わされました。
企業の脱炭素実践と不動産のESG価値 。日本ロレアルは、新宿オフィスにおける再生可能エネルギー100%化を達成しました。単なる自社の脱炭素化に留まらず、IoTを活用した運用データの可視化を通じてビルオーナーと深く連携し、建物全体の資産価値(Green Value)を共に高める「新たな共創モデル」の重要性を強調しました。 また、鹿島建設は「100年をつくる」企業として、単なる建物(ハード)の建設にとどまらず、将来を見据えた環境・社会・インフラの創出を重視しており、最新技術を活用して既存建築ストックの耐震性、意匠性、快適性やエネルギー効率を高めることが、今後の東京における不動産資産価値を大きく左右するとの認識が共有されました。
金融機関が牽引する新たな資金循環 三菱UFJ銀行は、脱炭素や社会的インパクト創出に向けた投融資を金融機関としての「機会」と捉えています。社会的インパクト不動産への投融資を通じ、環境的・社会的価値と不動産評価(経済的価値)を関連付ける新たな仕組みづくりを進めており、金融による資金循環が都市脱炭素や社会的インパクトの実装を力強く牽引していくことが確認されました。
■ まとめ:「都市脱炭素の未来とCIC Tokyoの役割」
フォーラムの最後には、CRREM COOのジュリア・ヴァイン氏から「政府、金融、産業界、そしてテクノロジーが協力すれば、東京がゼロエミッション都市の世界的先駆者となることは間違いない」との力強いメッセージが寄せられました。
本イベントを通じて、ゼロエミッション東京の実現には、行政の強力なリーダーシップ、世界基準(CRREM)による科学的な目標設定、企業の積極的なESG実践、そしてスタートアップによる革新的なテクノロジーの融合が不可欠であることが明確になりました。
CIC Tokyoは今後も「環境エネルギーイノベーションコミュニティ」を通じて、国内外のスタートアップ、投資家、行政、大企業を繋ぐハブとしての役割を果たしていきます。エコシステム内のキープレイヤーの協業を促進し、持続可能な社会の実現に向けたイノベーションの社会実装を支援してまいります。