開催レポート:Kokujin Experience-Evolution of Blackness in Japan- 日本におけるダイバーシティと人種問題の議論を深めるイベントを、日本で最大級のアフリカ系コミュニティJasporaとCIC Tokyoが共同で開催しました。
CICからのお知らせ

2月24日、日本で最大級のアフリカ系コミュニティJasporaと共同で、ダイバーシティと人種問題について議論するイベントを開催しました。ハイブリッド形式で行われた当イベントには250名を超える視聴があり、24カ国もの国籍の方々参加されました。日本国内だけでなく、アメリカやヨーロッパからも視聴があり、CIC Tokyo史上最も国際的でインクルーシブなイベントとなりました。

2月の黒人歴史月間 (通称: Black History Month)は、アメリカでの黒人の方の貢献を称えるために、1926年にアメリカで始まりました。Black History Monthは、その発足以来、米国を超えて広がり、現在では世界中の国々で大型のイベントが行われています。

日本では、黒人コミュニティーが日本社会で成長していることを背景には、見過ごされがちな彼女ら・彼らの歴史や活躍があります。当イベントでは、日本で活躍する黒人の大学教授、コラムニスト、学生、ミスユニバース ジャパン、LGBTQ協会の創設者などを招き、彼女ら・彼らの経験から、日本における隠された人種問題や、将来に向けて日本はどのように変わっていくべきか、について熱い議論が交わされました。

【登壇者】

ウォレン・スタニスロース (Warren Stanislaus)さん、立教大学准教授

ジョン・ラッセル(John Russell)さん、岐阜大学教授

杤木アイシャ(Aisha Harumi Tochigi)さん、ミス・ユニバース日本代表 2020

ローレン ファイクス(Loren Fykes)さん、 Pride Business Alliance プレジデント

バイエ マクニエル(Baye McNeil)さん、ジャパンタイムズ コラムニスト

-ボンゲキレ モッツァ(Bongekile Felicia Motsa)さん、 国際基督教大学 学部生

モデレーター:セナ ボンクジョビ(Sena Voncujovi)さん、Jaspora創設者

まず、岐阜県からオンライン登壇されたラッセルさんより、日本人と黒人が初めて交流をもったと言われる16世紀の鎖国時代から、世界大戦などを経て現代に至るまで、日本と黒人間の歴史についてお話しがありました。日本人の黒人の方に対する意識の変化に関しては、16世紀にはアフリカから来た人が珍しいと思われながらも尊敬の意を持って接せられたいた時代から、昭和には「黒人=アフリカ系アメリカ人」という偏った見方が主流となり、最近ではまた「アフリカ人」として見られるようになったと、時代によって日本人の見方も変わってきているとの見解をお話されました。

続いて、立教大学でグローバルリベラルアーツプログラムを教えるウォレン さんの授業についてお話を聞きました。「日本人の人種差別は “hatred” (嫌悪感)からではなく、”ignorance”(無知)から来ている」と、日本の学生たちが、人種問題について当事者意識が薄く、正しい知識が若いうちから教えられてこなかったことについて問題提起がなされました。

また、近年までは黒人の方のイメージがアスリートやエンターテイナーに偏っており、身体的に優れている黒人の方が成功者と見られていたのが、数年前にオバマ前大統領が当選した際に、黒人が知的にも優れているという認識が広まったことなどにふれられました。

ミスユニバースジャパン2020に選ばれた杤木愛シャさんは、自身の経験から、自分のアイデンテティに自信を持つこと、また「差別やいじめを受けてもあなたは何も悪くない。近くにいる人に話してください。私に話してくれても大丈夫です。」と、子供達や人種差別で悩んでいる方に向けて暖かいメッセージを送られました。

イベント中盤には小さなグループに別れての議論も行われました。オンラインの参加者はZoomのブレイクアウトルームにわかれ、来場者は会場の様々な場所に別れ、”How can Japan become more inclusive ?” (日本はどのようにしたらより包括的なインクルーシブな社会になれるか)という問いに対して、各グループで話し合っていただきました。様々な意見が飛び交い、多種多様な見解を全体に向けて発表する時間も設けられました。

イベントの後半冒頭、今回唯一の現役大学生として登壇したボンゲキレさんは、日常で感じる日本でのWhite-Wash(白人に媚びる)文化や、「美」のシンボルとして広告で見かけるのは日本人か白人ばかりで、黒人の女性に対して美しいという概念が根付いてないに不安を覚えたと話しました。

日本人男性との交際経験で差別的な言動があったことにも言及し、「留学経験のある日本人でさえ一見オープンマインドに見えても、実際に将来や現実的に物事を考えたときに我に帰り、差別的になる」と、忘れられない体験も共有してくださいました。

オンライン登壇された、ジャパンタイムズコラムニストであり、”Hi! My Name is Loco and I am a Racist”の著者でもあるバイエさんは、人種差別について日々考えるうちに、『「あの人は自分を差別してる」と相手を決めつけること自体が差別なのではないか。』と、自分の心の持ちようで、世界の見方が変わってくる。など、各々の気持ちの持ち方の大切さを訴えられました。また、Black Lives Matterのデモ活動を子供向けに ”わかりやすく” 構成したであろうNHKのアニメを例に出し、黒人の方々の見識を仰ぐこともなく、偏見に満ちた内容で構成されていることを批判されました。

最後に、日本で最大のLGBTQ協会を設立した、Pride Business Alliance プレジデントのローレンさんは、アフリカ系アメリカ人としてまた違う角度から人種差別について語られました。

「アメリカで暮らすよりも日本にいる方が、(はっきり言ってしまえば)白人が少ないからか自分次第で活躍できる余地がある」といったことも述べられましたが、あわせてアメリカ独自の人種差別と、世界的にみた黒人の方への差別の違いについてお話されました。

特に「黒人」という言葉が嫌いというローレンさんは、「黒人」という言葉によって、どんなバックグラウンドや国籍を持った人でも肌の色で一括りにされてしまい、どこの国からきたのか、なんの言語を喋るのかなど関係なくなってしまう。と、黒人という言葉によりアイデンテティがなくなってしまうことへの憤りを話されました。実際に当イベント名をどうするか考えた際も、「黒人」という言葉を使うことへの抵抗もありました。

モデレーターのセナさんはガーナ人と日本人の間に生まれましたが、自分たちは半分半分の「ハーフ」でなく多様なバックグランドを持った「ダブル」であるとお話しされました。単一民族国家である日本人は視野がまだ狭く、無関心さから来る人種差別が多いことを自覚する必要があり、まずは相手をよく知ろうとすることの大切さが一番大事であると最後にまとめられ、イベントは幕を閉じました。

イベントは終始英語で行われましたが、参加者も90%バイリンガルということもあり、英語イベントならではの空気感とインタラクションで会場は大いに盛り上がりました。

センシティブな議題でしたが、事実や体験に嘘偽りないお話が、多くの視聴者の心に刺さったのではないでしょうか。

最近まであったBlack Lives Matterの運動も記憶に新しい中、日本には関係ないと思いがちな黒人の方々に対する人種差別ですが、人種差別問題は日本でも歴史が長く、若い頃から問題に向き合い、日本人の中で当事者意識を育てていくことが大切だということが、全体を通して大きなメッセージとなりました。

CIC Tokyoとしても、Black History Monthを皮切りに、継続的にインクルーシブな環境づくりとダイバーシティーの促進に貢献して参りたいと思います。