E&E Community by CIC and U3Innovations
2026年3月5日(木)、愛知県のスタートアップ支援拠点STATION Ai(名古屋市昭和区)にて、「2025 Aichi GX / Manufacturing Acceleration Program 成果報告会(Demo Day)」が開催されました。本レポートでは、GX領域の採択スタートアップ5社による成果発表の様子をお届けします。
開催概要(Peatixサイト):https://aichigxmf-acceleration-program-demoday.peatix.com/
愛知県は、世界的な製造業の集積地としての強みを活かしながら、スタートアップとの融合による新産業創出・オープンイノベーションを推進しています。その核となる支援拠点STATION Aiを起点に、GX領域に特化したシードスタートアップ向けアクセラレーションプログラム「Aichi GX Acceleration Program」を実施。愛知県内企業とのマッチング・実証実験支援、そしてコミュニティ形成という総合的な支援を通じ、採択スタートアップの成長を後押ししてきました。本イベントはその集大成として、5社が約1年間の実証成果と今後の事業展開を披露するデモデイという位置づけで開催されました。
冒頭、愛知県経済産業局スタートアップ推進室の金丸氏から、愛知県のスタートアップ・エコシステム形成に向けた取り組みと本プログラムの概要が紹介されました。
金丸良氏(愛知県経済産業局スタートアップ推進室)
GX領域のプログラムではCIC Instituteが、Manufacturing領域ではデロイト トーマツ ベンチャーサポートがそれぞれ運営を担い、スタートアップの成長支援と事業会社とのマッチングを両輪で推進してきた1年間の成果発表への期待が共有されました。
リッパー株式会社——タイヤ粉塵規制を見据え、バイオ材料で環境タイヤを静かに再設計する
鈴木幹久氏 / リッパー株式会社 代表取締役社長:2020年に起業し、IoTマイクロモビリティ開発に着手。2023年からは環境タイヤ開発に事業を集中。それ以前はDX・IoT分野のコンサルタントとして、農業用ハウスの環境データ監視や河川監視カメラのPoCなどを支援。
2023年末にEU議会で成立した新規制により、2028年からタイヤの摩耗粉塵(PM)に関する規制が普通乗用車クラスから順次適用される見通しで、従来は排気ガスやCO2排出が規制の中心でしたが、走行中にタイヤから発生する粉塵の環境・健康影響が問題視され、タイヤの素材そのものが規制対象となってきています。上記の流れを受けて、タイヤに使われる材料を一から見直すべく、現在はバイオ材料・リサイクル材料・生分解しやすい材料の検証を進めています。2021年から5年以上にわたる開発を経て昨年は自転車用環境タイヤを市場に投入。本年からは普通乗用車クラスへと展開を広げていく計画となっています。
コメンテーターより
「ガソリンや電動化ばかり考えていたが、タイヤという観点は素晴らしい着眼点。アフターマーケットで消費者へ直接届ける構造が、環境価値の訴求にも適している」とコメントしました。
ESREE Energy株式会社——余剰再エネを”熱”として蓄える、産業向け蓄熱システムの開発
岩田貴文氏 / ESREE Energy株式会社 代表取締役 :経済産業省入省後、再生可能エネルギー政策、産業技術・オープンイノベーション政策等に従事。エネルギーミックスの策定業務や再エネ併設用蓄電池の普及支援策、研究開発税制の制度設計等に携わる。 2019年に同省を退職し、独立系VCより出資を受け、株式会社ポンデテックを起業。PC再生を通した、障がい者雇用のデジタル化推進事業を立ち上げ、同社を2022年に関西電力に売却。 再エネ導入拡大に伴うエネルギーの貯蔵・マネジメントの課題に取り組むべく、ESREE Energy株式会社を2023年に創業。
同社が開発するのは、余剰再エネ電力で油を熱し、砂利に流し込んで蓄熱する独自システムです。砂利は安価で表面積が大きく、熱交換効率に優れており、この流路設計については特許も出願済みです。現在は1kWhクラスのプロトタイプを製作中で、100〜数百度の熱を使う工場プロセスをターゲットとしています。今回のプログラムでは、日本特殊陶業の水素実証施設「SUISO no MORI」にて太陽熱集光器を使った実証実験にも挑戦。天候による熱入力の変動が想定以上に大きく、課題も浮き彫りになりましたが、余剰電力と太陽熱を併用しながら継続検討する方針を示しました。直近では資金調達を完了し、次年度は100kWhクラスの蓄熱槽開発と採用・パートナー探しを加速させていくと述べました。
コメンテーターより
「集熱・蓄熱・放熱という着眼点がユニークで、フットプリントが小さくなれば市場に受け入れられやすい」とコメントがあったほか、製造業関連の企業からも「弊社洗浄工程でも70度のお湯を使っており、すぐに活用イメージが湧いた」と、関心の高さが示されました。
株式会社komham——最短1日で98%分解。微生物技術で廃棄物インフラを刷新する
西山すの氏 / 株式会社komham 代表取締役:北海道出身。大学卒業後、PR会社を経て、2016年、クリエイティブファーム株式会社パーティーへ入社。 2018年よりフリーランスとして独立後、パーティー社案件に加え、VALUやワンメディアなどスタートアップのPR/ブランディングを担う。2020年より現職。
堆肥化は運用が難しく、失敗すると臭いや害虫の問題が出てしまいますが、独自開発の微生物群「コムハム」を添加することで処理速度が大幅に向上し、有機物を食べ尽くすことができます。これまで様々な企業や自治体に実証・導入を行ってきたソーラー駆動・IoT搭載の「スマートコンポスト®」に加え、今年度から高分解性を維持する微生物配合データベースを活用し、微生物解析を実施、不足微生物だけを処方する「Microboost」事業もスタートしました。今回は豊田市と小牧市の2自治体で実証を実施。小牧市ではイベント会場にスマートコンポスト®を設置して住民から生ごみを回収。その様子は専門誌「月刊廃棄物」にも掲載され、それをきっかけに企業等からの問い合わせも寄せられています。加えて、豊田市の堆肥化施設でMicroboost事業を試験的に実施し、微生物分解機能の状況を診断しました。
コメンテーターより
「自治体向け中間規模マーケットへの着目がユニーク。焼却炉の燃料コスト削減という数字で見せると、自治体への訴求力がさらに増す」とコメントがあったほか、「経験値の積み重ねが、堆肥処理の総合商社的な強みになる」と期待を寄せられました。
株式会社comvey——ECの段ボールゴミを郵便ポストで返せるリユース梱包へ
梶田伸吾氏 / 株式会社comvey 代表取締役: 1992年バンコク出身。慶應義塾大学商学部卒業後、伊藤忠商事株式会社にて物流領域の新規事業等に従事。2022年6月、株式会社comveyを設立。
郵便ポストに返却できるリユース梱包「シェアバッグ®︎」を開発しています。この「シェアバッグ®」は100回以上の繰り返し使用が可能で、日本郵便と共同開発しているため全国どこのポストにも返却できる仕組みです。現在、導入ブランドの20〜30%の購入者がシェアバッグを選んでおり、回収率は99.8%に達しています。本プログラムの期間中、これまで未連携であったECカートへの導入が始まったほか、ケリンググループ「ブシュロン」への店舗間BtoB物流での導入も決まりました。「シェアバッグを選ぶユーザーは環境意識が高く購買力もあるロイヤル顧客予備軍」というデータも提示。5か月以内のクーポン使用率が40%超に達しており、LTV向上のマーケティングツールとしての活用も進んでいると説明しました。
コメンテーターより
「欧州では2030年に、(PPWR(EU包装・包装廃棄物規則)に基づき)梱包材のリサイクル材義務化が予定されており、規制を追い風にできる可能性がある」とのコメントに加え、「三方よしのビジネスモデルとマーケティング活用が面白い」と高く評価されました。
株式会社スリーラボ——名古屋工業大発のパルスレーザーで切削工具の再研磨市場を刷新
夏目航平氏 / 株式会社スリーラボ 代表取締役: 名古屋工業大学大学院修了後、日本IBM・農業ロボットベンチャーを経て2024年に創業。愛知県豊川市出身。TechCrunchファイナリスト。
製造業の聖地でものづくりを根本から変えるという決意のもと、使用済み切削工具をレーザー加工技術を使い、再研磨する事業に取り組んでいます。工具材料の高硬度化で従来の砥石研磨では加工できないケースが増えており、ある工場では年間500kgもの工具が廃棄されているとのこと。タングステンやコバルトなど、材料の希少性と言った問題も発生しています。今回のプログラムではCKD株式会社とアイシン高丘と実証実験を実施。従来手法よりも高品質であるとのフィードバックも得られ、今後も導入に向けた継続的な検証に進んでいます。
コメンテーターより
「愛知でやる意味があるスタートアップ。まさにカッティングエッジな技術とビジネス」とのコメントのほか、「代替オプションがないサービスで、自動化の構想が固まればグローバル展開の可能性がさらに広がる」とのアドバイスもいただきました。
コメンテーターによる総評
5社の発表終了後、4名のコメンテーターから総括コメントが寄せられました。
(左から)武田 一哉 氏(Central Japan Innovation Capital 代表取締役)、石田 ともみ 氏(株式会社環境エネルギー投資 インパクト・オフィサー/キャピタリスト)、大城 昌晃 氏(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)サーキュラーエコノミー部 グリーンイノベーション基金 CO2分離回収 プロジェクトマネージャー)、高森 直宏 氏(武蔵精密工業株式会社 Advisor to Chief Innovation Officer)
武田 一哉 氏(Central Japan Innovation Capital 代表取締役) は「配送だけでなく回収も社会として考えていかなければならないという気づきを得た。また、半導体をはじめあらゆる製造に関わる表面加工技術の重要性は今後ますます高まる」と述べました。
石田 ともみ 氏(株式会社環境エネルギー投資 インパクト・オフィサー/キャピタリスト) は「20年ほどGX分野でVCをやってきたが、新しい市場を作ることは難しく、ビジネスモデルの工夫が鍵になる。今日の5社には、規制や追い風をうまく活用できる可能性が多く見えた。希少資源や廃棄物が従来以上に価値を持つ時代に、波に乗る力を磨いてほしい」とコメントしました。
大城 昌晃 氏(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)サーキュラーエコノミー部 グリーンイノベーション基金 CO2分離回収 プロジェクトマネージャー) は「一時的な向かい風はあっても、脱炭素はメガトレンドとして進んでいく。特定のマーケットを見定めながら技術を磨いてほしい」と激励しました。
高森 直宏 氏(武蔵精密工業株式会社 Advisor to Chief Innovation Officer) は「農業も製造業もエネルギーも、今日の全ての発表が刺さった。この愛知県からこういったスタートアップがどんどん出てきて、元気になっていけばいい」と語り、会場の笑いも誘いながら温かく締めくくりました。
進行を務めた溝手氏(CIC Institute)は、「5社全員が、環境インパクトに加えて消費者・事業者双方への経済的メリットも捉えた事業設計をしている点が非常に素晴らしい。CICとしても事業会社のご紹介を含め、引き続き支援していきたい」と総括しました。
今回のイベントを通じて初めてE&Eコミュニティを知っていただいた皆様へ
CIC TokyoとU3イノベーションズが立ち上げた環境エネルギーイノベーションコミュニティ(E&Eコミュニティ)は、サステイナビリティやカーボンニュートラルへの関心の高まりを背景に、イノベーション・エコシステムのステークホルダーが集い、スタートアップの成長や大企業・研究機関・行政機関との協業を通じたイノベーション創出を年間を通じて行っています。
【コミュニティメンバーを募集中です!】 スタートアップ・起業家・研究者・企業の個人会員は参加無料。詳細は環境エネルギーイノベーションコミュニティ運営事務局(env-startups@cic.com)までご連絡ください。
▶ コミュニティへの参加申込はこちら
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今回のデモデイを通じて、GXという大きな潮流の中で、愛知県が持つ製造業・産業インフラという地域資源を起点に、新しいスタートアップが着実に育ちつつあることが改めて実感されました。今後も定期的に開催予定のイベントなどへの、皆様のご参加をお待ちしております。
(レポート執筆:E&E事務局)