Event Report

九州・沖縄から世界を変えるGXディープテック。7組の研究者・スタートアップが挑む「Lab to Impact Vol.4 in 九州・沖縄」

October 27, 2026

2026年10月7日、福岡の新たなランドマーク「ONE FUKUOKA BLDG.(ワンビル)」にて、「Lab to Impact 〜GX分野の研究シーズが拓く未来 Vol.4 in 九州・沖縄〜」が開催されました。

持続可能な未来の実現に向けて、大学や研究機関に眠る高度な先端技術(Physical DeepTech)の社会実装が不可欠となっています。本イベントは、GX(グリーントランスフォーメーション)分野の研究開発型スタートアップ創出を加速させ、九州・沖縄が誇る卓越した研究シーズを全国の事業会社や投資家・VCと接続することを目的に開催されました。東京での第1回・第2回、北海道での第3回に続く第4回として、福岡の地で熱気あふれるピッチが繰り広げられました。

 

イベント概要

開催日時 2026年10月7日(水) 11:00〜13:00
場所 ONE FUKUOKA BLDG.(ワンビル)6F(福岡市中央区天神1丁目11-1)
対象領域 環境エネルギー・一次産業
運営 CIC Catalyst / 環境エネルギーイノベーションコミュニティ( E&Eコミュニティ)
審査員 二宮 一将 氏 / 株式会社ドーガン ディレクター
亀川 滋郎 氏 / 九州電力株式会社 グループ長(DX推進本部イノベーショングループ長)
芝尾 法子 氏 / Lifetime Ventures Principal

 

ピッチハイライト:7名の研究者・起業家によるプレゼンテーション

各登壇者が6分間のプレゼンテーションを実施し、事業化に向けた熱いビジョンと革新的な技術を語りました。

1. 重田 雄基 氏 / 九州大学 熱エネルギー変換工学(森昌司)研究室 事業化プロデューサー

登壇テーマ:沸騰冷却技術を活用したデータセンター・AIサーバー向け高効率冷却システム

AIの急速な普及に伴い、データセンターのラック単位の発熱量はドライヤー120台分をフル稼働させる規模に達しており、電力消費の爆発的増加が世界的な課題となっています。重田氏は、液体の相変化(潜熱)を利用することで、従来の空冷や水冷に比べ原理的に約100倍の熱伝達率を誇る「沸騰冷却技術」を発表しました。

森昌司教授の研究成果である本技術を用いると、毛管力などの自然力を活かすことで送風ファンを完全に排除できます。急速に進化するサーバー構造に対応するため、特殊な多孔質構造により冷却液面を従来の1/4に抑えて高価なフッ素系冷媒のコストや総重量を大幅削減する「浸漬冷却」と、GPUなどの超高発熱スポットを狙い撃ちする「局所冷却」の2系統を開発しています。初期導入費は既存水冷比で約1.2倍となるものの、ファン電力などの削減により運用費を劇的に圧縮でき、1ラックあたり3年間で約2,000万円のコスト削減を可能にする試算を示しました。

2. 山本 剛 氏 / 九州大学 山本研究室 准教授

登壇テーマ:熱とプラズマを操るCO2からCOへの革新的変換技術

日本の原油依存(中東依存度約95%)や脱炭素社会の実現に向けて、回収したCO2を有用資源へ再変換するCCU技術の確立が急務となっています。山本准教授は、CO2を有機化学原料や合成燃料(SAF)、ナフサ、プラスチックの元となる一酸化炭素(CO)へと高効率に変換する革新的プロセスを紹介しました。

本技術の核心は、「家庭用電子レンジと同等のマイクロ波プラズマ」と「バイオマスカーボン」を組み合わせた独自の2段反応にあります。1段目でプラズマによりCO2をCOと酸素ラジカルに解離させ、2段目でその酸素ラジカルとバイオマスカーボンを発熱反応(自己燃焼熱)させることで、外部投入エネルギーを極限まで抑制します。高価な水素や触媒を必要としないため不純物被毒の劣化がなく、ラボ試験ではCO濃度90%以上、CO2投入量の1.8倍のCO生成を達成しました。試算上は世界のCO市中取引価格と同等の低コストを実現可能としています。

3. 村上真哉 氏 / 株式会社SACMOTs 代表取締役(九州大学発)

登壇テーマ:「緑の革命2.0」を拓くプラントドラッグデリバリーシステム(PDS)

気候変動による農業生産性の低下(約21%減)や、化学肥料・農薬の過剰施用による環境汚染に対し、村上氏は植物本来の潜在能力を最大限に引き出す「プラントドラッグデリバリーシステム(PDS)」を提案しました。

植物は本来、全遺伝子の約50%しか機能を発現させていません。同社は、「遺伝子組換えやゲノム編集を行わずに、休眠している遺伝子のスイッチをONにして気孔を増やす技術」と、「微粒子化によって葉面から高効率に浸透させる専用の農業資材(バイオスティミュラント等)」を融合させました。これにより、高温下でのレタス結球や巨峰の着色不良の改善、農薬使用量の大幅削減、植物工場での栽培期間短縮などを実証しています。気孔を増やした機能性種子と専用資材をセット販売するパッケージモデルを掲げ、植物工場用レタスを皮切りに水稲や穀類へとグローバルに展開する計画を示しました。

4. 足立 穏則 氏 / 九州工業大学 池野研究室 高度専門職員

登壇テーマ:極限環境生物由来の「レアペプチド」を活用した高機能バイオスティミュラント

異常気象による乾燥・高温・塩害などの非生物的ストレスによって世界的な作物収量低下が深刻化する中、植物本来の活力を引き出すバイオスティミュラントへの注目が高まっています。しかし、既存の資材には作用機序や化学構造が不明瞭なものが少なくありません。足立氏は、九州工業大学の池野教授が10年以上研究してきたクマムシや極限乾燥耐性植物の耐性タンパク質に着目した新規資材を発表しました。

本技術では、過酷な脱水から細胞を守る特異なアミノ酸配列を人工的に設計した「レアペプチド」を合成します。受容体に結合してシグナルを送る一般的な薬剤とは異なり、ペプチドが細胞膜やタンパク質の周囲に物理的な保護シールドを形成するという独自の作用メカニズムを有しています。アミノ酸配列のエンジニアリングによって「塩害耐性」と「熱耐性」を組み合わせたハイブリッド設計も可能です。まずは海外で深刻化する塩害地域をターゲットに、フィールド実証を行う農業関連企業との連携を呼びかけました。

5. Karim HONEIN 氏 / 株式会社TLALOC BLUE(OIST発)代表取締役CEO

登壇テーマ:AI制御型・多種生物バイオ変換プラットフォームによる有機廃棄物のアップサイクル

世界で生産される食料の3分の1が廃棄される一方で、水産養殖用の魚粉や飼料原料の価格高騰が進んでいます。特に沖縄などの離島では、「有機廃棄物を島外へ搬出・焼却する処理コスト」と「高価な飼料を島外から輸入するコスト」の二重の負担が地域経済を圧迫しています。

Karim氏は、昆虫、ミミズ、微細藻類の3つの生物群を組み合わせ、AIとセンサーで統合制御するバイオ変換プラットフォームを提案しました。単一生物では対応が難しい多種多様で成分変動の激しい食品残渣を柔軟に分解・アップサイクルし、高品質な水産養殖用飼料や機能性サプリメント、バイオ肥料を生産します。フィリピンでの実証を経て、現在は沖縄県久米島にてエビ養殖場向けのパイロットプロジェクトを展開しています。OISTのアクセラレーター採択を含め累計3,500万円の資金調達を達成しており、離島やアジア太平洋地域における分散型サーキュラーバイオエコノミーの確立を目指しています。

6. 佐々木 賢 氏 / 福岡工業大学 生命環境化学科 長谷研究室 産学連携プロデューサー(認定URA)

登壇テーマ:未利用農産物やジビエ資源のアップサイクルによる高機能性食品・調味料の開発

佐々木氏は、福岡工業大学の長谷准教授の研究室が取り組む、本来廃棄される地域資源を科学的エビデンスに基づいて高機能性食品へと生まれ変わらせる研究開発を紹介しました。単なる加工にとどまらず、成分分析、物性評価、細胞・動物試験から機能性表示食品化までを一貫して見据えたアプローチが特徴です。

代表的な成果の1つが「摘果未熟ミカンと3番茶の異種混合発酵茶」です。未熟ミカンに含まれる有用成分ヘスペリジンは難溶性で吸収されにくい課題がありましたが、在庫になりがちな3番茶のカテキン等との相互作用を活かした独自発酵により可溶化に成功し、マウス実験で抗肥満や中性脂肪低下効果を確認しました。もう1つの柱が「ジビエ(鹿肉・猪肉)を活用した発酵調味料」です。鳥獣被害が深刻な一方で使用率が極めて低い捕獲個体に対し、福岡県醤油醸造協同組合との共同研究で端肉を丸ごと活用した「肉醤油」を開発。大豆醤油を上回る強い旨味と豊富な機能性ペプチドを含む調味料を実現し、パートナー企業との共同研究による社会実装を呼びかけました。

7. Aryan Rakheja 氏 / 九州工業大学 大学院生命体工学研究科 人間知能システム工学 Phd. D1

登壇テーマ:家庭向けAIパーソナルカーボンエージェント「Greenify」とスマートハードウェア「Green Home Power」

世界の温室効果ガス排出の約72%は家計消費に起因しており、家庭部門の脱炭素化はネットゼロ達成に不可欠です。しかし、生活者視点では「排出量の不可視性」「手動入力の煩雑さ」「継続性の低さ」「個別最適な改善策の欠如」という課題がありました。

Aryan氏は、モバイルアプリ「Greenify」と、家庭設置型の小型エッジAIデバイス「Green Home Power」 を開発しました。電力・ガスや交通系データを家庭内のNvidia Jetson搭載ルーターで暗号化・ローカル処理することで、プライバシーを厳格に保護しながら排出量を自動可視化します。パーソナライズされたAIが具体的な改善アクションを提案し、達成度に応じてエコ商品を購入できるポイントが付与されます。さらに、SNSのように直感的なスワイプ操作で代替エコ製品を発見できるUIを導入しており、実証実験では AI活用により月間10.3%の排出削減効果を記録しました。日常の中で無理なく楽しく続けられる仕組みで、若年層を中心とした脱炭素ライフスタイルを促します。

 

アワード授与:栄冠に輝いた2組のイノベーター

ピッチ終了後、厳正な審査を経て「CIC賞」と「審査員賞」が発表されました。

🏆 CIC賞:重田 雄基 氏(九州大学 森昌司研究室 事業化プロデューサー)

審査員選定コメント(二宮氏):「世界規模の課題を解決し得る極めてスケールの大きい技術です。CICが持つ東京やグローバルのネットワーク、投資家・VCの資本と早期に繋がり、世界へと力強く羽ばたいてほしいという期待を込めて選出しました。」

🏆 審査員賞:Karim HONEIN 氏(株式会社TLALOC BLUE 代表取締役CEO)

審査員選定コメント(芝尾氏):「審査員全員一致での選出となりました。離島や一次産業が直面する課題解決において九州・沖縄との親和性が非常に高い事業モデルです。地域の産学官ネットワークを活用し、事業を力強く拡大していただきたいです。」

 

総括とこれからの展望

審査員を代表し、九州電力株式会社の亀川 滋郎 氏より総括コメントが述べられました。

「どの登壇者も非常に魅力的で、本日の短いピッチの背景にある長年の研究の蓄積と、それを社会実装しようとする強い想い・熱量を肌で感じました。 CICという場は、多様なプレイヤーが集まり、交差し、新たなビジネスを育んでいく『交差点』です。登壇者の皆様が語られた『混ざり合いたい、出会いたい、共創したい』という熱い言葉に応え、地域や企業の垣根を越えて今後も力強く連携していきたいと思います。」

ピッチ終了後は現地会場にて記念撮影とネットワーキングが行われ、登壇した研究者・スタートアップと、九州内外から集まった事業会社・投資家との間で活発な意見交換が行われました。九州・沖縄に根ざした研究シーズが、地域の枠を超えてグローバルな課題解決へとスケールしていく可能性を強く実感させる一日となりました。

 


 

【E&Eコミュニティへのご参加・お問い合わせ】

E&Eコミュニティでは、持続可能なエネルギー社会の構築を目指すメンバーを募集しております。コミュニティ詳細・参加登録フォーム: E&E Community 登録ページ(参加無料)

お問い合わせ先: 環境エネルギーイノベーションコミュニティ運営事務局(env-startups@cic.com)