Event Report

日本のディープテック企業がいかにして壁を越え、成長軌道に乗ったのか──シード期からのリアルな歩みと挑戦

October 14, 2026

2026年10月1日、CIC Tokyoで開催された「Thursday Gathering #399」において、CIC Catalystの企画によるセッション「日本のディープテック企業が成長軌道に乗るには」が開催されました。

CIC Tokyoの開設当初から歩みを共にしてきたディープテックスタートアップたちは、これまでにどのような道のりを経て急成長・事業拡大を成し遂げてきたのか。本セッションは、その「リアルな歩み」を紐解き、現在シード・アーリー期のスタートアップや研究者、起業家へと共有することで、エコシステム全体をさらに盛り上げていくことを目的に企画されました。

当日は、CIC Tokyoのオープン時から関わってきたディープテック・スタートアップの経営者2名をお迎えし、事業拡大のプロセスで直面したリアルな壁と、それをどう乗り越えてきたのかを語っていただきました。現在シード・アーリー期に挑むスタートアップや研究者、起業家にとって、実際の経験に基づく具体的な示唆に富んだセッションになりました。

 

イベント概要

開催日時 2026年10月1日(木)17:00〜18:00
場所 CIC Tokyo & Online配信
運営 CIC Catalyst
登壇者 宮﨑 輝(株式会社レストアビジョン – 代表取締役COO)
栗山 真也(ネクストインフラ株式会社 – Founder、Vice-President)
桑原 郁子(CIC Catalyst – Project Manager)

 

登壇者紹介

宮﨑 輝 氏(株式会社レストアビジョン – 代表取締役COO)

株式会社レストアビジョン代表取締役COO(Chief Operating Officer)。コーポレートおよび事業開発を担当。新卒で日本政策投資銀行入行後、株式会社リバネスを経て、株式会社チャレナジー共同創業者兼取締役副社⻑、ティエムファクトリ株式会社財務担当等を歴任。2020年3月に取締役副社長COOとして当社へ参画し、2023年12月より現職。2009年3月九州⼤学法学部(知的財産法専攻)卒。熊本県出身。

栗山 真也 氏(ネクストインフラ株式会社 – Founder、Vice-President)

シリアルアントレプレナー。現在はネクストインフラの創業者として、「渋滞のない世界」の実現に向け、AIと交通データを活用した次世代の交通インフラづくりに取り組む。信号制御の最適化による渋滞緩和とCO₂排出量の削減を目指し、自治体や企業との連携を通じた社会実装を推進。福岡を拠点に、起業経験を生かしながら、技術を社会課題の解決につなげる事業づくりに挑む。

 

失敗と変化をバネにする組織づくり

華々しい急成長の裏側には、数多くの失敗が存在したと両氏は口を揃えました。

網膜の遺伝子治療薬開発に取り組む宮﨑氏は、「これまでの経営経験の中で、数多くの失敗や試行錯誤を重ねてきた」といい、「1年前を振り返ると記憶が遠のくほど、思っていたことと違うことを毎日やっている」と日々の変化を実感しています。事業の進展や経営資源の状況の変化に伴い組織のあり方が変わり、自身の役割も常にステージアップさせなければならないと語りました。

交通インフラの最適化に挑む栗山氏も、前職を含め自身が直面した困難を振り返り、「失敗している最中はそれどころではない」が、「そこから何を吸収できるか、次にどうつなげるかが重要」だと述べました。

 

技術だけでは越えられない事業化の壁と試行錯誤

ディープテックの事業化において、優れた技術やシーズを持つだけでは前に進まないという現実は、両登壇者の言葉に共通していました。

宮﨑氏は、「人」が本質的な課題だと指摘しました。つまり、経験者が圧倒的に足りないという課題です。自身がCICに入居してからの5年間の最初を、「自分たちが何も持っていないことを自覚していたことは良かった」と振り返り、ネットワークや専門知見が不足していることを自覚する中、CICのアクセラレーションプログラム(SCAP)への参加や、年に複数回に及ぶ海外の大型学会への参加など、地道なネットワーキングを通じて業界のインサイトを掴んでいったと語ります。英語や専門領域の壁がある中でも、医師・研究者である共同創業者を共通の話題にし、一歩ずつ信頼関係を築くアプローチを重ねてきたといいます。

栗山氏は他社との差別化の難しさに直面しながらも、特に海外への進出においては対人関係の「根回し」が重要だと語ります。タイやベトナムといった交通事情が非常に活発な地域へと飛び込み、現地の政府機関やJICA関係者、現地メーカーとの協力を通じて、現場に即した事業モデルの構築を進めました。「机上の空論では何も進まない」ので、まずは行動を起こし現地のパートナーとチームを組むことが不可欠であると、海外に直接足を踏み入れることの重要性を強調しました。

 

CICのオープンな環境とコミュニティがもたらす力

両者が事業を推進する上での大きな支えとなっているのが、CICをはじめとするコミュニティの存在だと語ります。

宮﨑氏は、社外の同じようなステージ、あるいは少し先を行く先輩経営者たちとカジュアルに悩みを相談し合える場の重要性を指摘しました。人事評価制度など、大っぴらに言えない課題をシェアできる仲間や、ボーダーレスに多様なイノベーションに触れられる環境が、特にコロナ禍下の事業立上げを経験した宮崎氏にとって日々の経営の大きな安心材料になっていると語りました。

栗山氏も、CICにいる周囲の経営者やスタッフと日頃から「壁打ち」を重ねてきた経験から、短い時間で事業の本質を誰にでも分かるように説明する訓練や、海外からの来訪者を含めた多様な人々との対話を通じて他の考え方を取り入れられる環境が魅力的だと説明しました。

日本のディープテック企業が成長軌道に乗るために必要なことは、単なる優れた技術の保有にとどまらず、自らの不足を直視し、周囲のネットワークや人を巻き込む力、そして不確実な環境の中でも小さな失敗を恐れずに行動し続けることであるというのが、本セッションを通じて見えてきました。

シード・アーリー期に挑むスタートアップや研究者にとって、目の前の壁を乗り越えるヒントは机上の空論ではなく、リアルなコミュニティの中での対話や実践的な挑戦から見出されていく。CIC Catalystは、今後もこうした挑戦者たちがつながり、エコシステム全体で成長し合える環境づくりを支援していきます。