イベント情報

【イベントレポート】活気に溢れる北海道のエコシステム。14名の研究者が事業化に挑む「研究者ピッチ in 北海道」

May 27, 2026

2026年5月15日、札幌のEZO HUB SAPPOROおよびオンラインのハイブリッド形式にて、「研究者ピッチ in 北海道― 全国の事業会社・VC/CVCとつなぐ ―」が開催されました。

本イベントは、北海道の大学や研究機関に眠る高度な研究シーズ(Physical DeepTech)を、全国の事業会社やVC/CVC、スタートアップ支援機関と接続することを目的としたものです。CIC TokyoとSTARTUP HOKKAIDO実行委員会などが共催し、オンラインを含め120名以上が参加する熱気あふれる場となりました。

 

単なる研究発表会にとどまらず、「研究をどう社会実装するか」「いかにして産業連携を生み出すか」という起業や事業化を強く意識した議論が交わされた当日の様子をレポートします。

 

当日の動画はこちら
https://youtu.be/K8JCA7z7o-Q

 

 

▪️北海道から生まれる次世代のイノベーション

豊かな自然資源と広大なフィールドを持つ北海道は現在、食や一次産業、GX(グリーントランスフォーメーション)、エネルギー、さらには宇宙やロボティクスに至るまで、次世代のイノベーション拠点として大きな注目を集めています。

北海道は現在、広大な土地や寒冷な気候、豊かな食資源を活かし、「食・一次産業」「環境・エネルギー(GX)」「宇宙」の3領域を中心に、新しい産業の集積を目指しています。本イベントは、まさにその文脈の中で、北海道のポテンシャルと全国の資本・産業界を接続する重要な「実験の場」として位置づけられています。

 

オープニングセッションでは、STARTUP HOKKAIDOやHSFC(北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク)などの取り組みが紹介され、地域全体で研究シーズを支援し、産業界へと力強く橋渡ししていく文脈が共有されました。

▪️14名の研究者が集結したピッチセッション

メインとなるピッチセッションでは、ClimateTech、AgriTech、Bio、Material、Energy、Roboticsなど、多岐にわたる分野から14名の研究者が登壇しました。

多くの登壇者がすでにGAPファンド(スタートアップ創出プログラム)を獲得していたり、起業準備を進めていたりと、ビジネス化への解像度が非常に高かった点で、いずれの発表も、ラボの中だけの基礎研究に留まらず、社会課題をどう解決し、どうビジネスとして成立させるかという視点が組み込まれていた点が非常に印象的なポイントとなりました。

・小野田 晃 氏 / 北海道大学・NGENIESS Biosciences 教授 

タンパク質のN末端のみを特異的に化学修飾する独自のバイオコンジュゲーション技術(N-Trinq)を紹介しました。この技術は日米欧で特許化されており、水に溶けるPET分解酵素の表面吸着力を高め、分解効率を最大8倍に向上させることに成功しています。これによりケミカルリサイクルのコスト削減と効率化が期待され、小規模プラントでの利用も想定されています。将来的には抗体医薬を中心とした診断薬や触媒固定化など、医療・他産業への応用も見込んでいます。

・鳥屋尾 隆 氏 / 北海道大学触媒科学研究所 准教授

CO2の約300倍の温室効果を持つN2O(一酸化二窒素)を、150度以下の低温で高効率に回収・分解・無害化する触媒プロセス装置を開発しました。従来必要だった400度以上の高温や高価なロジウム触媒が不要で、下水処理施設などの既存設備への後付けが容易なモジュール設計となっています。まずは温室効果ガス排出の約3割を占める下水処理分野をターゲットとし、装置販売と定期メンテナンスによる継続収益モデルの確立を目指しています。ゆくゆくは医療機関や農業、半導体産業への展開も視野に入れています。

・馬渡 康輝 氏 / 室蘭工業大学大学院工学研究科 准教授

温かいほど水に溶けず、冷たいほどよく溶ける下限臨界溶液温度(LCST)を持つ特殊な分子を発見し、温度に応答する調光フィルムへの応用を進めています。この水溶液を用いたフィルムは、温度が上がると自動で白濁して遮光し、下がると透明になって光を通す特性を持ち、分子設計により20度から55度の間で濁点の調節が可能です。農業用ハウスの高温対策として、可視領域の光を通して光合成を維持しつつ近赤外領域の熱を遮断でき、自動化による初期導入コストや作業者の熱中症予防にも役立ちます。

・石井 一英 氏 / 北海道大学大学院工学研究院 循環共生システム研究室 教授

家畜ふん尿のバイオガス化プロセスで大量に発生する「消化液」を活用し、エネルギーゼロで微細藻類を育てる窒素循環ビジネスを提案しています。消化液の貯留期間を利用し、濃度勾配による拡散駆動で窒素を膜越しに徐々に取り出して、クロロフィルを豊富に含むイカダモなどを生産します。これにより、1トン当たり数千円かかる消化液の水処理費用を大幅に削減しつつ、錦鯉などの高級な飼料として藻類の販売収益を得るモデルを目指しています。国内の窒素資源を循環させることで、食料や肥料の安全保障にも貢献します。

・羽太 優理 氏 / 株式会社LMusubi(北大発スタートアップ) 代表取締役

細菌が持つ特異的な酵素に結合して光る蛍光プローブを開発し、水や食品中の細菌を迅速に検出する技術を提供しています。細菌の増殖初期を捉えることで、従来は判定に1〜2日かかっていた大腸菌などの検査を6時間以内に短縮することが可能です。食品工場の在庫保管コスト削減や賞味期限延長に直結し、すでにスリランカの水道局と導入に向けた合意が取れており、途上国や被災地での展開も予定しています。

・武安 光太郎 氏 / 北海道大学触媒科学研究所 准教授

メタノールや水素を用いた燃料電池において、高価な白金の代わりに「炭素と窒素」のみを用いた独自の高耐久・低コストな触媒材料を開発しました。基礎的なメカニズムに基づきボトムアップで設計されたこの触媒は、高濃度のメタノールを使用しても一酸化炭素による被毒が起きにくく、従来必要な補機類を簡略化してコストを約4分の1に抑えられます。まずはディーゼルに代わる静音でメンテナンスフリーな災害時用バックアップ電源市場への参入を目指し、レドックスフロー電池やCO2還元市場への展開も計画しています。

・渡邉 智 氏 / 苫小牧工業高等専門学校 准教授

温度計の代わりに「光」と「光熱変換塗料」を用いた、世界初の超高感度な非接触熱量分析装置を開発しました。サンプルが小さいと温度計の影響が無視できなくなるという従来の限界を克服し、ナノメートルスケールの物質の熱量を簡便に測定できるようになりました。これにより、分子同士がどのように結合しているかという「相互作用」の可視化が可能になります。半導体製造における不純物の解析や創薬など、あらゆる産業の材料開発のボトルネック解消に貢献し、将来は製造ラインへの組み込みも想定しています。

・武田 理熙 氏・佐藤 遼弥 氏 / 北海道大学 修士2年・CDR^2

強い酸性で有害元素を含む鉱山排水に玄武岩を散布することで、大気中の二酸化炭素(CO2)を除去し、同時に排水を浄化する画期的な技術を開発しました。玄武岩から溶出する成分で海水の電荷バランスを調整してCO2を吸収する仕組みで、玄武岩3トンに対し1トンのCO2を除去でき、ヒ素や鉛も特殊な鉱物として除去します。DACなどに比べて設備投資が少なく、鉱山所有者からの排水処理費とカーボンクレジット販売の両輪で収益を上げます。2027年中に国際的なMRV手順書の認証取得を目指しています。

・陽川 憲 氏 / 北見工業大学 准教授

植物由来の香料などの有用成分を、遺伝子組み換えを行わずに安全かつ簡単に増加させる技術を開発しました。収穫前に脂質の一種である特定の薬剤を散布するだけで、植物の精油成分を安価に2倍から4倍に増やすことができます。世界的な天然香料の需要増加と供給不足の課題に応える技術として、すでに欧州のトップ香料メーカーからも注目を集めています。かつてハッカの一大産地であったオホーツク地域の農業復興を後押しするため、地元と緊密に連携しながら、地域に利益が還元される形での事業化を目指しています。

・楊 亮亮 氏 / 北海道大学 大学院農学研究院 准教授

深刻な人手不足に悩む農業現場に向け、AIによる3D画像認識技術を駆使した高精度な自動収穫ロボットを開発しています。特にワイン用ブドウを対象に、自然環境下で葉や枝に隠れた1〜2mmの細い果柄を5つの候補点から正確に認識して切断し、24時間連続稼働で収穫することが可能です。自動走行技術も確立しており、将来的には現在の大型機械の10分の1程度の価格での提供を目指しています。熟度などのデータ蓄積による付加価値創出や、ミニトマトやキュウリなど他の作物への展開も視野に入れています。

・高濱 良 氏 / 北海道大学/神戸大学 招聘教員/特命助教

酢酸菌が生成する非常に高強度な「微生物ナノセルロース(BCNF)」の量産化および加工技術を開発しました。製糖の副産物である糖蜜を原料とし、従来課題だったコストと量産性を克服する独自の「通気培養プロセス」を確立して特許を取得しました。微生物特有の緻密なネットワークにより、既存のポリウレタン製より優れた物性と高級感のあるレザー調の質感を持つシートの製造が可能です。アパレル向けの人工皮革代替材料として展開を始め、自動車内装材への応用や、極細のマイクロ繊維の連続生産にも取り組んでいます。

・野呂 真一郎 氏 / 北海道大学大学院地球環境科学研究院 教授

農作物の鮮度をコントロールするガス(成長を促すエチレンや、腐敗を抑制する1-MCPなど)を、安価な固体材料から簡便に放出制御させる技術を開発しました。パッケージを開封するだけで数ヶ月間ガスを放出し続けるため、輸送中の振動環境下でも使用でき、発芽防止や腐敗遅延に効果を発揮します。世界的なフードロスの削減と、美味しい農作物の安定供給を目指しています。

・中津川 征士 氏 / 函館工業高等専門学校 生産・電気電子 教授

サイバーフィジカルシステム(CPS)や膨大なIoTデバイスを支えるため、消費電力を抑えるアナログ信号処理技術と、無線での電力・情報同時伝送技術を開発しています。デジタル処理が主流の現状に対し、アナログ回路で位相を変化させることでシステム全体の情報処理負荷を削減します。周波数が時間で変化するチャープ信号を用いて他への干渉を抑えつつ高効率に電力を送るシミュレーションや、LED点灯実験にも成功しています。通信キャリアが投資しにくい農業や水産業のニッチな領域で、既存企業と協業してのインフラ構築を目指しています。

・坪内 直人 氏 / 北海道大学大学院工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター准教授

魚の深部温度(芯温)を予測・測定する疑似モデルデバイスを活用し、魚介類の鮮度と食べ頃を科学的に可視化する技術を開発しました。魚の大きさに依存しない同一デバイスで冷却中の温度変化をシミュレーションし、筋肉成分の分解度合い(K値)を算出します。さらに熱量計算により、超高鮮度を維持するための最適な氷の使用量も計算できます。流通の各段階で的確な鮮度管理が可能になることで、食品ロスの削減や早期値引きの防止に繋がり、数値化による履歴証明を武器に海外への高品質な水産物の輸出促進にも貢献します。

▪️投資家・事業会社とのリアルな対話が生む価値

ピッチ後の質疑応答では、電源開発(J-POWER)、SBIインベストメント、Alchemist Japanといった第一線で活躍する審査員陣から、事業化に向けた実践的な問いが投げかけられました。


「ターゲットとする市場規模はどの程度か」

「既存のサプライチェーンや製造ラインにどう組み込むのか」

「NPO的な社会貢献と、スタートアップとしての急成長をどう切り分けるか」


これらの問いに対し、研究者たちも単なる技術論にとどまらず、ビジネスモデルや協業パートナーの開拓状況を交えて回答。研究とビジネスが交差する、まさに「DeepTechスタートアップが生まれる瞬間」を垣間見るような白熱した議論が展開されました。

 

 

たとえば、迅速な微生物検査技術の事業化を進めるLMusubiの羽太優理氏に対しては、NPOとしての枠組みとスタートアップとしての事業戦略をどう切り分けるかといったアドバイスが寄せられました。投資家と研究者が同じ目線で「事業化の壁」に向き合うこれらの対話は、研究シーズを全国の産業界へ接続するという本イベントの狙いを体現していました。

▪️アワード授与

イベントの締めくくりには、今後の成長が特に期待される登壇者へアワードが贈られました。

CIC賞に輝いたのは、LMusubiの羽太優理氏。すでに国内の食品工場向けに出荷検査ビジネスを立ち上げており、今後の展開においてCICのグローバルなコミュニティを活用し、さらなる成長を加速させることが期待されての受賞となりました。

 

そして、賞金100万円が贈られるJ-POWER賞は、北海道大学の石井一英氏(バイオマス・廃棄物循環技術)が受賞しました。J-POWERが現在取り組んでいる微細藻類や消化液の処理といった事業領域と、石井氏の研究との間に強いシナジーが見込めるという点が決め手となりました。

▪️総括:北海道から世界を動かすDeepTechを

今回の「研究者ピッチ in 北海道」は、単なるシーズ発表会ではなく、北海道のPhysical DeepTechが全国の資本や産業界と結びつく、熱気と可能性に満ちた場となりました。

食、一次産業、エネルギー、気候変動対策など、人類が直面する大きな課題に対し、北海道という広大なフィールドと高度な研究力が掛け合わさることで、世界を変えるようなイノベーションが生まれる。そんな確かな予感を感じさせる時間となりました。

 

CIC Tokyoはこれからも、環境エネルギーイノベーションコミュニティ(E&Eコミュニティ)などの活動を通じて、全国各地に眠る素晴らしい研究シーズと、それを社会実装へと導くプレイヤーたちをつなぎ続けていきます。北海道から羽ばたく次世代のDeepTechスタートアップの活躍に、ぜひご期待ください。

 

CIC Tokyoはこれからも、各地の挑戦者たちと産業界・投資家をつなぎ、共に未来を創るコミュニティを広げていきます。

 

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